何が語られるか
バフェットは公言した。「受信箱に彼のメモが届いたら、すぐに読み終える」と。マークスが35年のメモで語り尽くしたのは、たった一語——サイクル。
1990年、ロサンゼルス。ハワード・マークスは机に向かい、顧客に一通の手紙を書いた。図表もなければ、予測もない。あるのは思考だけ。この習慣が35年続くとは、本人も思っていなかった。のちにバフェットは公然と認めている——受信箱に彼のメモが現れるたび、手元の仕事をすべて投げ出してすぐに読み終える、と。一千五百億ドルの資産を運用する男が、なぜ同じ規模を動かすもう一人の男にここまで一目置かれるのか。毎回相場を当てたからではない。むしろ逆だ。彼は当てられるふりを一切しなかった。代わりに、もっと難しいことをやってのけた——市場が最も熱狂しているときに冷静を保ち、最も恐怖に呑まれているときに勇気を保ち、その過程を正直に書き残したのだ。この一冊は、その35年分の思考を凝縮したものである。
誰が読むべきか
- 「二次的思考」が、あなたの判断を市場のコンセンサスより一歩先へ進める仕組みを理解する
- 検証不能なマクロ予測に頼るのではなく、サイクルのどの人置にいるかを見極める方法を学ぶ
- 極端な市場心理のなかで逆張りの決断を下すための、根本的なロジックの枠組みを手に入れる
试聴く第一章音声解説
精読全文
第 1 章 · ハワード・マークスのメモ——35年分の「二次的思考」の教科書
バフェットは公言した。「受信箱を開いて彼のメモを見たら、すぐに読み終える」と。
1990年のロサンゼルス。まだ誰もハワード・マークスを知らない朝、彼は机に向かい、顧客に一通の手紙を書いた。凝ったレイアウトもなければ、図表もない。あるのは文字だけ。この習慣が35年続き、二百篇を超えるメモを生み、ついには世界で最も聡明な投資家たちが、受信箱に彼の名前を見つけるたび手元の仕事を投げ出すようになるとは、本人は知る由もなかった。
バフェットはのちにこう公言している。「受信箱を開いて彼のメモを見たら、すぐに読み終える。」
この一言にいくらの価値があるのか。言葉にするのは難しい。だがマークスは35年かけて一つのことを証明した——誰もが先を争って未来を予測しようとするこの業界で、持続的に、冷静に、正直に思考しつづけること、それ自体が希少な資産なのだ、と。
マークスの核心にある武器は「二次的思考」と呼ばれる。
一次的思考はこう働く。「これは良い会社だ。買うべきだ。」もっともらしく聞こえる。だが市場の参加者のほぼ全員が、同じ判断をしている。二次的思考は、そこからもう一歩踏み込む。「これは良い会社だ。だが誰もが良いと知っている。そのコンセンサスはすでに株価に完全に織り込まれている——だから、必ずしも良い買い場とは限らない。」この二つの文の差こそ、大多数の投資家が一生かけても越えられない一線なのだ。
彼はマクロを予測しない。ウォール街ではほとんど異端と言っていい。だが、ある問いだけは徹底的に重視する。「今、私たちはサイクルのどの人置にいるのか?」来年上がるか下がるかではない。いま市場の心理、バリュエーション、信用環境が一体となって指し示しているのは、貪欲か恐怖か。サイクルの天井か、底か。この判断に精密さは要らない。おおむね正しければいい。
2007年7月、マークスは、のちに何度も引用されることになるあのメモを書いた——『The Race to the Bottom(底辺への競争)』である。彼はそこで警告した。プライベート・クレジット市場が不安になるほどの速さで基準を緩めている。借り手の条件はますます甘くなり、投資家は案件を奪い合うあまり、自分の身を守る権利を集団で手放しつつある、と。誰も聞かなかった。市場はまだ宴の最中だった。
12か月後、リーマン・ブラザーズが倒れた。
オークツリーは2008年の金融危機で、不良債権資産を大量に買い向かった。市場のパニック売りで、額面の三、四割まで価格が崩れた債券——マークスの目には、それは贈り物だった。彼が運用する資金は最終的に一千五百億ドルに達するが、その土台はまさに、他人が最も恐怖していた瞬間に築かれたポジションにある。2020年、コロナが引き起こした市場の暴落でも、彼は同じ動きを繰り返した。
二度の危機、同じ一つの方法論。
マークスには、「二次的思考」とほぼ同じくらい引用される一言がある。「You can't predict, you can prepare.」未来は予測できない。だが、備えることはできる。常識のように聞こえる。だがこれを本当に自分のものにするということは、極めて魅力的な一つの幻想を手放すことを意味する——他人に見えない未来が、自分には見えるという幻想だ。それを手放してはじめて、本当の仕事が残る。いまのリスクの値付けが妥当かを見極めること。市場心理が理性からどれだけ乖離しているかを判断すること。他人が楽観に傾きすぎているときに自制し、他人が悲観に傾きすぎているときに勇気を保つこと。
35年間、メモは一度も止まらなかった。毎回新しい主張があったからではない。書きつづけるという過程それ自体が、一種の思考訓練だったからだ——曖昧な感覚を、明確な判断へと追い込む。明確な判断を、検証にさらせる文章へと追い込む。
今日、マークスの息子アンドリューはすでにオークツリーのCEOを引き継いだ。父が遺したのは、一千五百億ドルを運用する会社だけではない。繰り返し読める二百篇を超える思考のサンプルでもある。
投資の手法は模倣できる。だが、35年途切れない正直な記録は、そう簡単には再現できない。
二次的思考を実戦で使う手がかりは、どんな判断のあとにも一文を付け加えることだ。「もし私が正しいなら、市場のコンセンサスは何か? そのコンセンサスは、すでに価格に織り込まれているか?」コンセンサスと価格のあいだにズレがあってはじめて、超過リターンの余地が生まれる。—— 投資の示唆
についてハワード・マークス
ハワード・マークスはオークツリー・キャピタルの共同創業者。長年にわたり不良債権とハイイールド債への投資に専念し、会社の運用規模を一千五百億ドルまで育て上げた。1990年から投資メモを書き始め、35年間一度も途切れさせず、累計二百篇を超える。世界中の機関投資家が必読書とみなす文章だ。2008年の金融危機の前には明確な警告を発し、危機の只中で大量に買い向かった。彼の評価が決定づけられたのはこのときである。マークスはこれらのメモを一冊にまとめ、『投資で一番大切な20の教え』として刊行した。バフェットはこれに序文を寄せ、推薦している。これらの文章が今なお繰り返し読む価値を持つのは、そこに記されているのが結論ではなく、一人の冷静な人間が現実の市場のプレッシャーのなかで、どのように一歩ずつ判断を導き出していったか——その過程そのものだからだ。
查看ハワード・マークス全投資ノート →本篇 1 の書き留めたい一節
- 二次的思考を実戦で使う手がかりは、どんな判断のあとにも一文を付け加えることだ。「もし私が正しいなら、市場のコンセンサスは何か? そのコンセンサスは、すでに価格に織り込まれているか?」コンセンサスと価格のあいだにズレがあってはじめて、超過リターンの余地が生まれる。—— 投資の示唆



