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受託者に宛てた一通の投資メモが、世界で数兆ドルにのぼる資産配分の論理を書き換えた
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第 1 章 · ダリオが一族の信託のために「オール・ウェザー」を設計し、リスク・パリティという新しい型を生んだ
受託者に宛てた一通の投資メモが、世界で数兆ドルにのぼる資産配分の論理を書き換えた
1996年、レイ・ダリオはブリッジウォーターのオフィスに座っていた。目の前にあったのは、ありふれた機関投資家の資金ではなかった。彼を眠れなくさせる一つの問いだった——もし自分がいなくなったら、誰がこの判断を下すのか?
この委託は、ある一族の信託から来た。受託する側の要求はきわめて素朴だった。どんな指数にも勝つ必要はない。ただ、ダリオがこの世を去った後も、この資金が生き残ること。経済のどんな局面も、生き抜くこと。アクティブ運用はなし。毎日のチャート監視もなし。「今どうすべきか」と彼に電話できる人は、誰もいない。
この問いが、彼にゼロから考え直すことを迫った。
伝統的な機関の配分の論理は、投じる金額の大きさで比重を割り振る。株式60%、債券40%——この組み合わせはウォール街で何十年も流行し、「バランスのとれた」標準解として崇められてきた。だがダリオは簡単な計算をしてみて、眉をひそめた。株式の年率ボラティリティは、債券のおよそ三倍ある。つまり「60/40」のなかでは、リスクのほぼ90%が、あの60%の株式から来ているということだ。債券の存在は、心理的な慰めにすぎない。ひとたび株価が崩れれば、この「バランス」と称する組み合わせは、株式100%の組み合わせとほとんど変わらないほど沈む。
これはバランスではない。バランスの衣をまとった、一点張りだ。
彼は問いを二つの軸に分解した。経済成長と、インフレ。それぞれの軸が、予想を上回るか、予想を下回るか。四つの組み合わせが、彼の言う「四つの季節」をかたちづくる——経済が加速して成長する局面、減速して後退する局面、インフレが予想以上に高進する局面、インフレが予想外に沈み込む局面。どの瞬間をとっても、世界はこの四つのどれか、あるいはそのあいだの移ろいのなかにある。
そして彼は自問した。それぞれの「季節」で、どの種類の資産が最もよく振る舞うのか?
成長が加速するとき、株式と商品が潤う。成長が鈍るとき、長期国債とインフレ連動債が避難所になる。インフレが予想を超えるとき、金と商品が天然のヘッジになる。インフレが予想外に下がるとき、名目債券が大きく値上がりする。この四種類の資産を、それぞれ対応する象限に置く。そしてどの象限も、おおよそ等しいリスクを負わせる——等しい金額ではない、等しいリスクだ。
これが「リスク・パリティ」の、いちばん最初の姿だった。
四つの象限のリスクを本当に対等にするため、ダリオはボラティリティの低い債券にレバレッジをかけた。この操作は当時、いささか直感に反して見えた——多くの人の本能は「レバレッジをかける=より大きなリスクを取る」だ。だが彼の論理は、まさにその逆だった。低ボラティリティの資産にレバレッジをかけるのは、それに組み合わせのなかで「公平な分け前」のリスクを負わせるためであり、株式の独り勝ちを許さないためだった。
このメモは、当初は受託者に読ませるためだけの、社内文書にすぎなかった。
それが何になるか、誰も知らなかった。
2000年代の初め、ブリッジウォーターはこの論理を正式に商品化し、オール・ウェザー・ファンドを世に出した。学界はやがてこの方法論を「リスク・パリティ」と名づけ、その過去データの検証を体系的なに始めた。結果は人々を驚かせた。過去数十年のいくつもの相場サイクルにおいて、この戦略のシャープレシオは伝統的な60/40を明らかに上回った。とりわけ2000年のITバブル崩壊と2008年の金融危機のさなか、株式が半値になるなかで、オール・ウェザーのドローダウンははるかに小さかった。
ソブリン・ウェルス・ファンド、年金ファンド、大学のファンドが、われ先にと模倣を始めた。2010年代の半ばには、リスク・パリティの論理で運用される資産は世界で1兆ドルを突破していた。一族の信託のために書かれた一通のメモが、世界の資産運用業界の根っこの論理を、書き換えてしまったのだ。
だが、規模そのものが、新たなリスクを埋め込んでいた。
2013年、FRBが債券買い入れの縮小を示唆し、債券市場は激しく揺れた。リスク・パリティ戦略はおしなべて、レバレッジをかけた債券を大量に抱えている。債券と株式が同時に下げると、戦略は二種類の資産を同時に投げ売りせざるをえなくなり、市場に「デレバレッジの渦」を引き起こした。本来はリスクを分散するために設計された道具が、極端な流動性の圧力のもとでは、かえって変動を増幅する装置になってしまった。
2020年3月、コロナの衝撃が襲い、同じ脚本がふたたび上演された。株式が暴落し、本来なら債券が緩衝になるはずだった。だが最初の数日間、両者はそろって沈んだ。オール・ウェザー型の戦略は、生まれてから最も見るに堪えないドローダウンに見舞われた。
ダリオ自身も、この時期に外部からの疑念を浴びた。彼はのちに、ブリッジウォーターが2020年初めのポジション判断を誤ったと率直に認めている。それでも彼は、この枠組みの根っこの論理を、最後まで手放さなかった。問題は四象限そのものにあるのではない。すべての人が同じ一枚の地図で航行するとき、その地図が地形そのものを歪め始める——そこにあった。
これは、あらゆる成功した戦略が逃れられない宿命だ。ひとたび十分な数の人に真似されれば、超過収益は削り取られていく。それどころか極端な瞬間には、保有する者へと牙をむく。
一室のなかの私的な委託から、世界の数兆ドルの流れをつくり変えるまで。ダリオに要した時間は、20年に満たない。この過程で本当に肝心だったのは、ある一度の精緻な相場判断ではない。1996年に彼が自分に投げかけた、あの問いだった——もし私がいなくても、この資金はどう生き延びればいいのか?
まさにこの「不在のために設計する」という思考のしかたが、彼に主観的な判断を極限まで切り詰めさせ、構造的な論理を極限まで押し上げさせた。これこそオール・ウェザー戦略の最も深い核だ——何か魔法のような資産の組み合わせではない。「不確実性」に対して永久に謙虚であろうとする、配分の哲学なのだ。
ポジションの比重は、資金の割合ではなくリスクで測る。組み合わせを組むときは、まず各資産のボラティリティを計算し、そこから逆算して資金を割り振る。ボラティリティの高い資産が、名目上の比率は高くないのに、実際には全体のリスクを支配してしまう——その罠を避けるためだ。—— 投資の示唆
本篇 1 の書き留めたい一節
- ポジションの比重は、資金の割合ではなくリスクで測る。組み合わせを組むときは、まず各資産のボラティリティを計算し、そこから逆算して資金を割り振る。ボラティリティの高い資産が、名目上の比率は高くないのに、実際には全体のリスクを支配してしまう——その罠を避けるためだ。—— 投資の示唆

