何が語られるか
2008年9月のあの週末。米財務長官が72時間ぶっ通しで会議を続けても救えなかった。月曜の寄り付き、世界の金融システムは崩壊寸前まで追い込まれた。
午前1時45分。158年生まれき延びてきた投資銀行が、誰にも気づかれないまま破産を申請した。その瞬間、ほとんどの人はまだ眠りの中にいた。だがその前の72時間、米財務長官ポールソンはウォール街のトップ全員を同じ部屋に閉じ込め、政府の救済なしの交渉マラソンで、この崩壊を食い止めようとしていた。成功にもっとも近づいたその瞬間、イギリスの規制当局が放った一言――「認可しない」。最後の藁が、すっと抜き取られた。この本が語るのは、ただの救済失敗劇ではない。危機が本当に火を噴いたあの週末を再現し、同じ瓦礫の中で、人々がいかに正反対の選択を下したのかを描き出す。
誰が読むべきか
- 金融危機が72時間のうちに、制御可能な状態からいかにして制御不能へ滑り落ちるのかを理解する
- 同じ崩壊の中で、バフェットとアックマンがそれぞれ勝者となった根本的なロジックをつかむ
- 実在の歴史を物差しに、自分のリスク判断を校正する参照系を手に入れる
试聴く第一章音声解説
精読全文
第 1 章 · 2008年9月15日未明、リーマンが破綻したあの週末
米財務長官ポールソンが72時間ぶっ通しで会議を続けても救えなかった。月曜の寄り付き、世界の金融システムは崩壊寸前まで追い込まれた。
午前1時45分。2008年9月15日、月曜の未明。リーマン・ブラザーズ――ウォール街で158年生まれき延びてきたこの投資銀行が、正式に連邦破産法の適用を申請した。
6130億ドルの資産。史上最大の倒産。たった一つの数字が、金融の業界全体の呼吸を止めた。
物語は72時間前にさかのぼる。9月12日、金曜の夕方。ニューヨーク連銀ビルの会議室は煌々と灯りがついていた。財務長官ハンク・ポールソンは、ゴールドマン・サックス、JPモルガン、メリルリンチ、モルガン・スタンレー――ウォール街の巨人たちのCEOを残らず同じ部屋に集め、ドアを閉めた。意味はただ一つ。政府は金を出さない、自分たちでリーマンを救う手を考えろ。これは食事会ではない。退路のない交渉マラソンだ。
まる二日間、案が次々とテーブルに上り、次々とひっくり返された。成功にもっとも近づいた瞬間、手を差し伸べたのはイギリスのバークレイズだった。リーマンの中核資産を買収する用意がある――その報せに、会議室で誰かが胸をなで下ろした。
そして、イギリスの規制当局が拒否した。
認可しない。交渉の余地なし。バークレイズはそのまま交渉のテーブルから消えた。あの週末、最後の命綱が断たれた。
9月15日午前1時45分、リーマンが破産を申請する。月曜の朝、世界の金融市場は、土台から柱を一本引き抜かれたようにぐらついた。ダウ平均は1日で504ポイントの暴落。だがもっと危険だったのは、一般の人の目に見えない場所だ。コマーシャルペーパー市場が、ほぼ凍りついた。これは無数の企業が日々の運転資金を支払うために使う短期の資金調達手段である。この市場が止まれば、給料の支払いさえ危うくなる。
二日後の9月17日、AIGが政府に助けを求めた。世界最大の保険会社は、クレジット・デフォルト・スワップを天文学的な量で売っていたせいで、すでに債務超過に陥っていた。今度は政府も拒まなかった。850億ドルの緊急注入と引き換えに、79.9%の株式を取得した。
その後の二週間、ワシントンは7000億ドルのTARP救済策を打ち出す。金融システム全体が、繰り返し救命処置を受ける患者のように、数日おきに除細動器をあてられていた。
まさにこの瓦礫の中で、正反対のことをしている人間がいた。
9月24日、リーマン破綻からわずか9日後。ウォーレン・バフェットがゴールドマン・サックスに50億ドルを注入し、年利10%の永久優先株と新株予約権を手に入れた。こっそり買ったのではない。公然と宣言したのだ。この会社は生き延びると私は見ている、だからもっとも脆い瞬間に、私はそこに踏み込む、と。10月1日には、GEも同じ条件で彼から30億ドルの注入を受けた。
彼が後に語った一言は、何度も引用されることになる。「危機において、勇気とともに握る現金は、値段がつけられないほど貴い」。現金に勇気が加われば、危機のさなかではその価値は計り知れない。
だが勇気は、けっして盲目ではない。危機のもう一方の側で、ビル・アックマンは2008年よりずっと前から、債券保証会社MBIAの空売りを始めていた。同社が保証した大量のサブプライム関連商品が、いずれ崩れると賭けたのだ。それは孤独な、市場に長いあいだ嘲笑され続けた賭けだった。リーマン破綻の後、MBIAの株価は崩壊し、アックマンのファンドはこの取引だけで10億ドルを超える利益を上げた。彼の勝利は、あの週末から生まれたのではない。誰よりも早くあの貸借対照表を読み解いたことから生まれたのだ。
同じ一つの危機。会議室でむなしく交渉を続けた者がいる。市場が崩れ落ちる瞬間に、惜しみなく賭けに出た者がいる。そして崩壊が起きる前から、すでに正しい方向に立っていた者がいる。
2008年9月のあの週末は、金融危機の終わりではない。それが本当に始まった瞬間だった。歴史とはいつもこういうものだ。もっとも暗い午前1時45分こそ、ある者の生涯でもっとも重要な投資判断が、ひそかに埋め込まれる瞬間でもある。
危機における流動性プレミアムは極めて高い。市場のパニックでコマーシャルペーパーのような短期資金調達が凍りついたとき、十分な現金を握る投資家は、平時には考えられない条件――たとえば10%の優先配当に新株予約権を添えて――優良資産への入場券を手に入れられる。「弾薬」を備えておくこと自体が、超過リターンの源泉になる。—— 投資の示唆
編集部について
本書は、編集部が大量の一次資料と当事者の証言をもとに整理したものだ。2008年9月12日から15日まで、現代金融史を塗り替えたあの週末を余すところなく再現している。リーマンの破綻は、これまでで最大規模の企業破産だ。6130億ドルの資産が一夜にして清算手続きに入り、その衝撃波はその後十数年にわたり、世界の金融規制の土台を作り替えた。今日でも、市場にシステミックリスクの兆しが現れるたび、この週末は実務家たちが何度も振り返る原点であり続けている。これを読むのは、歴史を知るためではない。次の危機が訪れたとき、ただの傍観者で終わらないためだ。
查看編集部全投資ノート →本篇 1 の書き留めたい一節
- 危機における流動性プレミアムは極めて高い。市場のパニックでコマーシャルペーパーのような短期資金調達が凍りついたとき、十分な現金を握る投資家は、平時には考えられない条件――たとえば10%の優先配当に新株予約権を添えて――優良資産への入場券を手に入れられる。「弾薬」を備えておくこと自体が、超過リターンの源泉になる。—— 投資の示唆

