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マクロのロジックは非の打ちどころがなかった。それでも一夜にして、市場の需給に踏み上げられた
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第 1 章 · ジュリアン・ロバートソン、円売りの踏み上げで20億ドル超の損失
マクロのロジックは非の打ちどころがなかった。それでも一夜にして、市場の需給に踏み上げられた
1998年10月7日深夜。ニューヨーク・マンハッタンのタイガー・ファンドのトレーディングルームでは、スクリーン上の数字がほとんど残酷とも言える速さで動いていた。ドル円相場が48時間で15%近く急騰したのだ。200億ドルを超える資産を運用するジュリアン・ロバートソンにとって、それは単なる数字ではない。20億ドルを超える現実の損失が、わずか二日で跡形もなく消えた。
時計を1998年初夏に戻そう。ロバートソンはグローバル・マクロのヘッジファンド運用に23年間身を投じ、輝かしい戦績を残してきた。彼が見た日本は、ぞっとするほど鮮明な後退の風景だった。銀行業界には不良債権が山積みになり、政府債務のGDP比は年々上昇し、輸出企業は円安に頼ってかろうじて延命している。中央銀行の手札もほとんど尽きていた。論理の鎖は一つひとつ噛み合っていた。日本経済のファンダメンタルズは悪化し続けている、ならば円はさらに下がるはずだ。
タイガー・ファンドはほどなく巨額の円ショート・ポジションを構築した。これは様子見の賭けではない。十分な確信を伴った、本気の集中投資だった。ロバートソンのチームは綿密なファンダメンタルズ分析を行い、金利差から得られる収益を試算し、日本当局が為替介入できる能力の限界まで見積もっていた。彼らのモデルの中で、この取引の勝率はきわめて高かった。
マクロのロジックは、ほぼ非の打ちどころがない。
問題は、市場が決してロジックの時刻表どおりには動かないことだった。
1998年8月、ロシアが債務のデフォルトを宣言する。この報せは静かな水面に投げ込まれた巨石のように、誰も予想しなかった形で四方へ波紋を広げていった。世界中の投資家がリスク資産を狂ったように投げ売りし、われ先にと避難先を探した。そしてこのパニックのただ中で、円は、ロバートソンが「さらに下がるべき」と断じていたこの通貨は、ねじれたロジックによって突如として安全資産へと変わったのだ。
理由は、キャリートレードそのものの構造にあった。過去数年間、無数のヘッジファンドが低金利の円を借り入れ、ドルやほかの高金利通貨に換えて利ざやを稼いでいた。この「円キャリートレード」の鎖は規模が巨大で、しかも極度に脆かった。ひとたび世界のリスク選好が急反転すれば、全員が同時にポジションを解消しなければならない。ドルを売り、円を買い戻す。需要が一瞬でゼロから天文学的な数字へと跳ね上がる。
それと時を同じくして、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の危機が9月末についに爆発した。1250億ドルのバランスシートを抱え、レバレッジが25倍にも達したこの巨大ファンドは、世界中のあらゆる市場にポジションを張り巡らせていた。FRBがウォール街の大手各行を緊急に取りまとめて救済に動いたとき、LTCMはもっとも醜い価格でポジションを投げ売りせざるをえなかった。その損切りの一つひとつが、市場に新たな衝撃波を生み出していった。
10月7日から8日にかけて、円はわずか二営業日でおよそ1ドル134円から116円付近へと急騰した。一日の値幅は史上有数の記録を更新した。こんな動きは、どんな正規分布のリスクモデルでも、発生確率はほぼゼロに等しい。
タイガー・ファンドの円ショートは、こうして市場の需給に踏み上げられた。
ロバートソンはあとになっても自らの判断を否定しなかった。日本経済は確かに弱く、円は確かに割高だった。これらの事実は1998年10月以降もなお有効だった、と。だが「正しい」ことと「儲かる」ことのあいだには、致命的な深い溝が横たわっていた。タイミングと、ポジションの大きさである。
この20億ドルの損失は、1998年通年でタイガー・ファンドが約4%の損失を出した主な要因の一つとなった。かつて年率30%を超えるリターンを叩き出した伝説的なファンドにとって、この一年の痛手は財務面だけにとどまらなかった。ロバートソンは投資家からの圧力を感じ始め、ファンドの運用規模はその後二年にわたって縮小を続け、ついに2000年に清算を表明することになる。
では、問題はいったいどこにあったのか。
グローバル・マクロの取引には、しばしば見過ごされる致命的な特徴がある。方向は正しくても、タイミングの窓を誤り、そこに過大なポジションが重なれば、「市場が理性を取り戻す」のを待つ前に、誰であろうと市場に殺されてしまうのだ。ケインズのあの言葉、「市場が非合理でいられる時間は、あなたが支払い能力を保てる時間より長くなりうる」は、1998年10月の為替市場で教科書どおりに証明された。
さらに深い教訓は、危機が伝播する連鎖の非線形性にある。ロシアのデフォルト、世界的なデレバレッジ、円キャリーの巻き戻し、円の急騰、ショートの破裂。この鎖の一つひとつは単独で見ればたどれる筋道がある。だが、それらが折り重なって生まれる速さと激しさは、いかなる線形モデルの予測の範囲をもはるかに超えていた。流動性危機はリスクの増幅器ではない。それはリスクそのものを定義し直す力なのだ。
ロバートソンが1998年に犯した過ちは、方向を読み違えたことではない。極端な局面において「強制的な手仕舞い」という外生的な力がもたらす破壊力を、過小評価したことだった。市場に同じ向きのポジションが大量に積み上がっているとき、デレバレッジを引き起こすどんな外部ショックも、テクニカルな踏み上げを一方的な殺戮へと変えてしまう。ファンダメンタルズがどれほどあなたの判断を支持していようとも、関係ない。
23年の輝かしい戦績も、二日間の流動性の嵐には抗えなかった。これはロバートソンが市場に負けたのではない。彼が十分に値付けしていなかったリスクの次元に負けたのだ。極限の圧力下では、ポジションそのものが敵になる。
マクロのロジックが正しいことは、取引が正しいことを意味しない。方向・タイミング・ポジションの大きさ、この三つが同時に成立しなければならない。重いマクロ・ポジションには、損益ではなくボラティリティに基づいた損切りラインを設けるべきだ。極端に乖離したときは、「市場が理性を取り戻す」のを待つのではなく、強制的にポジションを減らす。—— 投資の示唆
本篇 1 の書き留めたい一節
- マクロのロジックが正しいことは、取引が正しいことを意味しない。方向・タイミング・ポジションの大きさ、この三つが同時に成立しなければならない。重いマクロ・ポジションには、損益ではなくボラティリティに基づいた損切りラインを設けるべきだ。極端に乖離したときは、「市場が理性を取り戻す」のを待つのではなく、強制的にポジションを減らす。—— 投資の示唆

