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永守重信 · 日本電産、執念の M&A 封面

永守重信 · 日本電産、執念の M&A

流派 · 开荒者
巨匠 · 編集部
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一行で言うと 町工場から世界一の精密モーター企業を築いた永守重信

何が語られるか

町工場から世界一の精密モーター企業を築いた永守重信。買収と再建、そして執念の経営哲学を四章でたどる。

親指の先ほどの小さなモーターが、あなたのスマートフォンを震わせ、ハードディスクを回し、いまは電気自動車を走らせようとしている。その分野で世界の頂点に立つ会社を、たった四人で始めた男がいる。永守重信。日本電産――いまのニデック――の創業者だ。彼は六十件を超える企業を買収し、その多くを赤字から黒字へと立て直してきた。「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」。この一見素朴な言葉の裏に、なぜそこまでやれたのかという問いが横たわっている。本ユニットでは、創業から世界制覇、M&A の方法論、EV への賭け、そして最後に残された後継という難題まで、四つの章でその経営の核心を解きほぐしていく。

誰が読むべきか

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第 1 章 · 四人と、世界一への約束
知的男性ナレーター · 约 6 分
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精読全文

第 1 章 · 四人と、世界一への約束

あなたの手の中にあるスマートフォン。それを震わせている小さな部品を、見たことがあるだろうか。直径わずか数ミリのモーターだ。パソコンのハードディスクを毎分何千回も回しているのも、モーター。エアコンの風を送り出すのも、モーター。人はモーターを意識しない。けれど、現代の暮らしは無数の小さなモーターの上に乗っている。そのうち、特に小さく、特に精密なモーターの世界で、長く頂点に立ってきた会社がある。日本電産――いまのニデックだ。そして、この会社を始めたのは、たった四人だった。

話は1973年にさかのぼる。京都。永守重信、二十八歳。彼は自宅の納屋のような場所で、仲間三人とともに会社を立ち上げた。社員四人。資本も、信用も、実績も、ほとんど何もない。あるのは、技術への確信と、途方もない目標だけだった。永守は最初から「世界一になる」と言っていた。町工場の規模で、世界一。普通なら笑い話だ。だが彼は本気だった。そしてその本気を、彼は言葉ではなく時間で証明しようとした。

永守という人を理解するには、彼の生い立ちにも少し触れておきたい。彼は京都の貧しい農家に生まれた。決して恵まれた出発点ではない。だからこそ、人と同じことをしていては勝てないと、若いうちから骨身に染みていた。学歴でも資本でも勝てないなら、何で勝つのか。答えは、努力の量と速さしかない――この単純で苛烈な結論が、彼の経営の出発点にあった。世界一という言葉は、虚勢ではなかった。それは、何も持たない者が持てる者に勝つために、自分に課した究極の目標だったのだ。

このユニットでは、その永守重信という人物を、四つの章でたどっていく。第一章――いまこの章では、創業から、世界一の精密小型モーター企業を築くまでの土台を見る。なぜ「小さなモーター」だったのか。なぜ世界の市場で勝てたのか。第二章では、彼の名を最も有名にした武器――六十件を超える M&A と、買収先の再建に踏み込む。第三章では、その方法論をさらに分解し、赤字企業をどう黒字に変えたのかを具体的なに見ていく。そして第四章で、EV(電気自動車)という巨大な賭けと、一代で築いた帝国に残された最後の難題――後継――に向き合う。集中と拡大、創造と再建、そして承継。この四つの軸が、永守の経営のすべてを貫いている。

まず、なぜ「精密小型モーター」だったのか。永守の戦略は、徹底して一点に絞ることだった。大きなモーターは作らない。汎用品で価格競争もしない。彼が狙ったのは、小さく、精密で、高い回転精度が求められる用途だ。具体的なには、ハードディスク・ドライブ(HDD)を回すスピンドルモーター。コンピュータが普及し、データを記録する装置が爆発的に増えていく時代――その心臓部を回す部品に、永守は会社の命運を賭けた。HDD のディスクは、わずかなブレも許されない。だから、そこに使われるモーターには極めて高い精度がいる。技術のハードルが高い。だが、高いからこそ、勝てば独占に近い強さになる。永守はそこを読んでいた。

そして、もう一つの武器が「スピード」だった。創業期、無名の町工場に大企業は相手をしてくれない。永守はどうしたか。「誰よりも速く作る」ことで信用を奪い取った。他社が一週間かかる試作を、二日で出す。深夜でも休日でも、注文があれば応える。彼自身が、誰よりも長く働いた。世界一になるという目標に対して、彼が最初に投じた資源は、お金でも人脈でもなく、自分の時間だった。「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」――のちに日本電産の社是のように語られるこの言葉は、スローガンとして掲げる前に、永守自身が体で示していた行動原則だった。

やがて時代が、永守の読みに味方する。1980年代から1990年代にかけて、パソコンが世界中に広がった。HDD の需要は跳ね上がる。その HDD を回すスピンドルモーターで、日本電産は世界シェアの大半を握るまでになった。一つの小さな部品で、世界の市場を制する――創業時の「世界一」が、現実になっていく。さらに会社は、HDD だけに依存しないよう、用途を広げていった。光ディスク、家電、自動車。小さく精密なモーターという核を保ちながら、それを使う先を増やしていく。集中で深さを作り、応用で広さを作る。この二段構えが、日本電産の土台になった。

だが、技術力と市場の追い風だけでは、ここまでの規模には到達できない。世界中に散らばる企業を取り込み、束ね、強くしていく――そのための、もう一つのエンジンが永守にはあった。彼を「買収の名手」と呼ばせた、あの方法論だ。一体、永守は何を基準に会社を買い、買った後の現場で、まず何に手をつけたのだろうか。

第 2 章 · 六十社を呑み込む

前章では、永守がなぜ「小さなモーター」という一点に集中し、スピードと労働で世界一の土台を築いたかを見た。HDD のスピンドルモーターで世界シェアの大半を握る。そこまでは、技術と市場の物語だった。だが、日本電産がただの優秀な部品メーカーで終わらなかったのは、もう一つのエンジン――買収――があったからだ。永守は、生涯で六十件を超える M&A を手がけた。これは日本の製造業の経営者として、群を抜いて多い。彼は「買収の永守」と呼ばれた。

なぜ、そこまで買収にこだわったのか。一つは、時間を買うためだ。新しい技術や顧客や生産拠点を、ゼロから自前で育てるには何年もかかる。だが、それを持っている会社を買えば、その時間を一気に飛び越えられる。永守の口癖は「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」だった。スピードを至上とする経営者にとって、買収は時間を圧縮する最も鋭い道具だった。光ディスク用、家電用、車載用、産業用――日本電産はモーターと、その周辺技術を持つ会社を次々と取り込み、製品の幅と地理的な広がりを一気に拡大していった。

だが、永守の買収が他と決定的に違ったのは、買う相手の選び方だった。普通、企業を買うなら、業績の良い、勢いのある会社を欲しがる。高い値段を払ってでも、優良企業を取りに行く。永守は逆だった。彼が好んで買ったのは、業績の悪い会社――赤字に沈み、誰も欲しがらない会社だった。なぜか。優良企業は高い。だが、傾いた会社は安く買える。そして永守には、その会社を立て直す自信があった。「悪い会社など存在しない。悪い経営があるだけだ」。彼はそう考えていた。設備があり、技術があり、働く人がいる。それなのに赤字なら、原因は経営のやり方にある。そこを変えれば、会社は必ず黒字に戻せる――この確信が、彼の買収戦略の核心にあった。

だから日本電産の M&A は、安く買って、立て直して、価値を上げるという一貫した型を持っていた。割安で手に入れた会社を再建すれば、買収にかけた金額をはるかに超える価値が生まれる。投資の言葉で言えば、これは「本来の価値より安い値段が付いた資産」を買い、自分の手で価値を顕在化させる行為だ。市場が見限った会社の中に、磨けば光るものを見抜く。そして実際に磨いてみせる。永守は、それを一度や二度ではなく、何十回も繰り返した。再現性があったからこそ、彼の手法は「運」ではなく「方法」と呼べた。

ここで大切なのは、買収が永守にとって目的ではなく、手段だったということだ。彼は会社を買い集めること自体を誇ったのではない。買った会社を強くし、グループ全体の競争力を高めることに意味を見ていた。買って終わりではなく、買ってからが本番。むしろ、買収契約に判を押した瞬間から、永守の本当の仕事が始まった。彼はしばしば、買収先に自ら乗り込み、現場に立ち、社員に語りかけた。トップが直接、再建の先頭に立つ。これが、多くの買収が「ただの寄せ集め」で終わる中で、日本電産の買収が機能した大きな理由だった。

もちろん、すべてが順風満帆だったわけではない。文化の違う会社を束ねるのは難しい。買収のスピードに、再建や統合が追いつかない局面もあった。海外企業の買収では、現地のやり方との摩擦も生まれた。買った会社の数だけ、向き合うべき問題も増える。それでも永守は、買収という手段を手放さなかった。一つの本業――精密モーター――を核に据えながら、その周りに買収で多様な事業を積み上げていく。集中と拡大を同時にやる。この二つは矛盾するように見えて、永守の中ではひと続きだった。核がぶれないからこそ、周りにいくらでも積み増せる。軸足を一つに固定して、もう一方の足で広く踏み出す。それが永守の流儀だった。

この買収戦略は、投資の視点から見ても示唆深い。多くの企業買収は失敗する。高い値段で優良企業を買い、期待したほどの相乗効果が出ず、のれん代だけが重荷として残る――これがよくある失敗の形だ。永守はそのリスクを、入り口で避けていた。安く買えば、もともと払った金額が小さい。だから、たとえ再建がうまくいかなくても、傷は浅い。逆に再建が成功すれば、得られる価値は払った金額をはるかに上回る。下振れを抑えながら、上振れを大きく取る。これは投資で言う「リスクとリターンが非対称」な構造だ。永守は、買収という博打に見える行為を、構造として勝ちやすい形に設計していた。安く買うこと自体が、最大のリスク管理だったのである。

では、買収先に乗り込んだ永守は、現場で実際に何をしたのか。コスト削減か。リストラか。最新設備の導入か――おそらく、あなたが想像するものとは少し違う。赤字の会社を黒字に変える、その最初の一手は、もっと別のところにあった。次の章で、その再建の現場に踏み込んでいく。

第 3 章 · 再建は、意識から始まる

前章では、永守が赤字企業を安く買い、自ら立て直すという独自の M&A の型を見た。「悪い会社などない。悪い経営があるだけだ」。この確信のもと、彼は六十社を超える企業を呑み込んできた。だが、買うだけなら金を出せば誰でもできる。本当に難しいのは、買った後だ。赤字に沈んだ会社を、どうやって黒字へと反転させるのか。この章では、その再建の現場に踏み込んでいく。

永守の再建には、ある際立った特徴があった。それは、最新の設備を入れることでも、いきなり大量の人を切ることでもなかった。彼がまず変えようとしたのは、人の「意識」だった。赤字の会社には、たいてい共通の空気が流れている。どうせ変わらない。これまでもこうだった。挑戦しても無駄だ――そういう諦めの空気だ。永守はこれを「病気」と呼んだ。設備や技術が古いのではない。そこで働く人の心が、負け癖に染まっている。だから、まず心を変える。意識が変われば行動が変わり、行動が変われば数字が変わる。順番は、いつもそうだった。

では、どうやって意識を変えるのか。永守は、特別なお金のかかる施策を打ったわけではない。彼が徹底したのは、ごく当たり前のことだった。整理整頓。掃除。挨拶。時間を守る。約束を守る。コストを一円単人で意識する。一見、再建とは関係なさそうなことだ。だが永守は、こうした「凡事」を徹底できない会社は、大きな仕事もできないと考えた。床に物が散らかっている工場で、精密なモーターは作れない。掃除一つ満足にできない組織が、難しい改革をやり遂げられるはずがない。当たり前のことを、当たり前に、しかし誰よりも徹底してやる。「凡事徹底」――この言葉は、永守の再建哲学そのものだった。

そして、その先頭にいつも永守自身が立った。彼は買収した会社に乗り込むと、社員と同じ目線で現場を歩き、自ら問題を見つけ、自ら声をかけた。トップが本気だと、現場は分かる。社長が口だけなら、社員も口だけになる。だが、誰よりも早く来て、誰よりも遅くまで働き、誰よりも細かいところまで見ているトップがいれば、組織の空気は変わり始める。永守は再建を、号令や数値目標だけで動かそうとはしなかった。自分が動いて見せることで、人を動かした。

ここに、永守の経営を理解する鍵がある。彼のハードワーク――猛烈に働くという姿勢――は、単なる根性論ではなかった。それは、組織の意識を変えるための、最も強力な手段だった。「私は誰よりも働く」という事実を、言葉ではなく日々の行動で示し続ける。そうすることで、諦めの空気を吹き飛ばし、「この人についていけば変われるかもしれない」という期待を現場に灯す。人の気持ちが前を向けば、同じ設備、同じ人員でも、生み出されるものが変わってくる。コストを削る前に、人の心が変わる。だから黒字化が実現する。永守の再建は、つねにこの順番だった。

もちろん、意識改革だけで会社が黒字になるわけではない。永守は同時に、徹底したコスト管理も行った。彼は無駄を嫌った。会議の時間、書類の枚数、電気の使い方に至るまで、一円のコストにこだわった。だがそのコスト意識すら、根は同じだ。「自分の会社のお金を、自分の財布のお金のように大切にする」という意識を、全員に持たせる。つまり、コスト削減もまた、意識改革の一部だった。技術や設備という「ハード」ではなく、人の心という「ソフト」を起点に据える。そこに、永守の再建の独自性があった。

この方法には、再現性という大きな強みがあった。最新設備に頼る再建は、お金がなければできない。特定の天才技術者に頼る再建は、その人がいなくなれば終わる。だが「意識を変え、凡事を徹底し、トップが先頭に立つ」という方法は、相手がどんな会社でも適用できる。だからこそ永守は、六十社という途方もない数の再建を、繰り返し成功させることができた。一つの哲学を、何十回も実装する。これは、投資においても示唆に富む。本当に強い手法とは、一度きりの幸運ではなく、何度でも再現できる型を持つということだ。

こうして、集中と買収、そして再建という三つの力で、日本電産は世界的な企業へと駆け上がった。だが、永守の物語はここで終わらない。彼の前に、これまでとは桁違いの大きな賭けが現れる。HDD のような小さなモーターではなく、自動車を丸ごと走らせるモーター――EV への挑戦だ。そして、その大きな挑戦の足元で、一代で帝国を築いた者だけが直面する、もう一つの重い問いが待っていた。次の章で、その二つに向き合う。

第 4 章 · EV への賭けと、譲れない椅子

前章では、永守の再建が「意識から始まる」ことを見た。設備でも人員整理でもなく、人の心を変え、凡事を徹底し、自らが先頭に立つ。その再現性のある型で、六十社を黒字へと導いた。集中・買収・再建――この三つの力で、日本電産は世界的企業になった。だが永守は、安住しなかった。彼の視線は、もっと大きな市場に向いていた。電気自動車――EV だ。

自動車が、ガソリンエンジンから電気モーターへと動力を変えつつある。これは、永守にとって途方もない好機だった。考えてみてほしい。一台の自動車は、これまで小型モーターを何十個も積んでいた。だが EV では、車そのものを走らせる「駆動用モーター」が要る。これは、HDD を回す小さなモーターとは桁違いに大きく、桁違いに重要な部品だ。エンジンが消え、その場所をモーターが占める。世界中の自動車が EV に変われば、巨大なモーター市場が新しく生まれる――永守はそう読んだ。そして、その市場の主役を、自分たちが取りに行くと宣言した。彼は EV 向け駆動モーターを、会社の次の柱に据える、と。

これは、永守らしい賭けだった。小さく精密なモーターで世界一になった会社が、まったく規模の違う大型モーターに、本業の延長として踏み込む。創業時、誰も見向きもしなかった小さなモーターに賭けたように、今度は EV というまだ立ち上がりきらない市場に、巨額の投資を先回りで投じた。「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」――この行動原則は、巨大な賭けの場面でも変わらなかった。市場が確実になってから動くのでは遅い。確実になる前に動くからこそ、主役になれる。永守の強気は、創業から一貫していた。

だが、EV モーターへの道は、HDD ほど平坦ではなかった。新しい市場には、競合も多い。自動車メーカーは部品の値段に厳しく、利益を出すのは簡単ではない。先行投資は重く、すぐには実を結ばない。永守の壮大な構想は、目標として掲げた数字に、現実が追いつかない局面もあった。大きな賭けには、大きな不確実性がついて回る。それでも永守は、自動車の電動化という時代の大きな流れそのものは揺るがないと見ていた。短期の逆風に一喜一憂せず、長い時間軸で市場の到来に賭ける。その姿勢は、投資家が学ぶべきものを多く含んでいる。

そして、この EV への賭けの足元で、永守はもう一つの、ある意味でより難しい問題に直面していた。後継――事業承継だ。永守は一代で、たった四人の町工場を、十万人規模の世界企業へと育て上げた。これは途方もない達成だ。だが、その達成そのものが、新たな難題を生んだ。あまりにも強烈な創業者がいる会社は、その人がいなくなった後、どうなるのか。

永守は、自分の引退を見据えて、後継者を社外から招き入れた。経営の第一線を譲ろうとした。だが、いざ任せてみると、思うようにいかない。経営の方針や速度をめぐって齟齬が生まれ、永守は経営の前面に戻ってくる。譲っては戻り、また譲る――この後継問題は、長く繰り返された。なぜ、これほど難しいのか。理由ははっきりしている。永守の強さ、つまり「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」という凄まじいエネルギーと、自ら先頭に立つ経営スタイルは、彼個人に深く根ざしていた。それは、誰かに引き継げる「仕組み」というより、永守という一人の人間そのものだった。創業者の個の力が強ければ強いほど、その力を次の世代に渡すのは難しくなる。

ここに、深い逆説がある。永守を世界一にした資質――並外れた執念と、現場に立ち続ける姿勢――が、そのまま事業承継を阻む壁になった。会社を作る力と、会社を引き継がせる力は、別物なのだ。買収先の再建では、永守は「トップが先頭に立つ」ことを武器にした。だが自分自身の会社では、永守が先頭に立ち続ける限り、次のトップは育ちにくい。彼が現場を退けば組織が緩み、彼が戻れば後継者が育たない。この板挟みこそ、一代で巨大企業を築いた者だけが背負う、最後の難題だった。

ここまで、四つの章で永守重信という経営者をたどってきた。第一章で、小さなモーターへの集中と、スピードと労働による世界一への土台を見た。第二章で、六十社を超える買収という、時間を圧縮する武器を知った。第三章で、その買収を支えた「意識から始まる再建」の哲学に触れた。そして第四章で、EV という未来への賭けと、後継という最後の壁に向き合った。永守の生涯が教えてくれるのは、こういうことだ。本業を一点に絞り込む集中力。市場が見限った資産の中に価値を見抜く眼。そして、何度でも繰り返せる再現性のある型。これらは、経営だけでなく、投資の核心にも通じている。同時に、創業者の強さが承継の壁になるという逆説は、どんな成功にも次の課題が控えていることを教える。一つの山を登り切った者の前には、必ず次の山が現れる。永守の物語は、その厳しさと面白さを、私たちに静かに突きつけている。

悪い会社などない。あるのは、悪い経営だけだ。—— 金言

編集部について

編集部

永守重信(ながもり しげのぶ、1944年生まれまれ)は、日本電産(2023年にニデックへ社名変更)の創業者。京都の町工場から精密小型モーターで世界トップへと会社を育て、六十件を超える M&A と買収先の再建で知られる。本ユニットは公開された事実と本人の発言に基づき、その経営思想を初心者向けにたどる。

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